第七官界彷徨 尾崎翠
「人間にも第六感がそなはつてゐるんだ。まちがひなくそなはつてゐるんだ。人間の第六感は、終始ははたらかないにしろ、ひとつの特殊な場合にはたちまちにはたらきだすんだ。それは人間が恋愛をしてゐる場合なんだ。 」
恋。特に対人間の恋をすると自分で自分を計っていた定規みたいなものがてんで役に立たなくなってくる。
世界がワントーン明るく見えたり、いつもの格好がダサく見えたり、気づけば視線を送ってたり、些細なことで心がぎゅんとしたり…。
急に生活の勝手が変わるからこまったものだ。でも、困っているのになんだか嬉しくてたまらないものだったりする。 こうなるともうてんでダメだ。敵わない。
…もしかしたらこれは、この少女が言う 『第六感』が働くせいなのかもしれない。 お手上だ。身を任せてしまえ。全ては第六感、お前のせいなんだ、と。